あなたは『もったいないから』という理由で、何かを購入したり、反対に何かを止められなかったという経験はありませんか?
「どうしようかな…」と悩む場面で「もったいないから〇〇しよう」と決断した。
もしそんな経験があるのなら【サンクコスト効果】が作用していたのかもしれません。
本記事では、このように身近な心理現象の1つである【サンクコスト効果】の基本情報やその実例についてご紹介いたします。
またコピーライティングへの活用例についてもご提案いたしますので、心理学的効果を活用してより読み手の心を動かすライティングをしたいという方にはぜひ最後まで読んでいただき、本記事がお役に立てれば幸いです。
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サンクコスト効果とは?
サンクコスト効果とは「取り戻す事のできない、費やしてしまったコスト(お金や時間・労力など)を惜しいと思い、その後の判断が合理的に行えなくなる心理現象のこと」を言います。
「長い時間待ったのだから…」
「こんなに頑張ったのだから…」
「お金を支払ったのだから…」
…など。
『もったいない』と感じる経験は誰もがあることでしょう。
しかし、過ぎたことをどんなに“もったいない”と思っても、それらは取り戻すことのできないもの。
そして、そのまま続けていてもメリットは得られないだろうと頭では分かっていてもやめられず続けてしまう。
このような場面でサンクコスト効果は作用しています。
サンクコスト効果は情報を正しく解釈できずに意思決定(物ごとの選択)を左右させてしまう考え方のエラーのようなもので、認知バイアス1の一種となります。
※1 認知バイアス:思い込みやこれまでの経験にもとづく直観などによって無意識に合理的ではない判断をしてしまう心理現象の1つ
サンクコスト研究とその歴史
サンクコスト効果の研究は、心理学者のダニエル・カーネマンとエイモス・トベルスキーが共同研究で初めて認知バイアスという概念を生み出したことから始まります。
カーネマンらによる認知バイアスの研究は、2002年にノーベル経済学賞を受賞するほどに発展しました。
そして、この認知バイアスの研究をもとに、サンクコスト効果の概念を唱えた行動経済学の専門家リチャード・セイラーも2017年にノーベル経済学賞を受賞。
セイラーの他にも数多くの行動科学者や経済学者が、サンクコスト効果という現象が引き起こされる理由はどういったものなのかを解明しようと研究してきました。
コンコルド効果について
本記事ではサンクコスト効果についてご紹介していますが、サンクコスト効果と同じ意味で使われる言葉に『コンコルド効果』というものがありますので、こちらも合わせてご紹介いたします。
そもそもコンコルド効果とは『超音速旅客機コンコルド』の開発事業と、その判断が引き起こした大失敗のなりゆきに由来する言葉です。
超音速旅客機とはものすごいスピードで飛ぶ旅客機ということで、そのスピードはパリ〜ニューヨーク間を従来機の約半分程度の時間で結ぶほど。
この超音速旅客機コンコルドの開発はイギリスとフランス共同で1960年代から行われました。
その開発は世界中の注目を集め、膨大な予算をつぎ込まれたものでしたが、開発途中で
◆通常より長い滑走路が必要なこと
◆燃費が悪いこと
◆乗客定員数が少なくなること
様々な問題が発覚していきます。
これらの理由から見ても、この超音速旅客機コンコルドの開発を続けていても採算が取れない事は明らか。
採算が取れないのであれば事業を撤退する。
もし合理的な考え方ができていれば、それが損失を抑えるいちばん良い方法であろうと判断できます。
しかし、事業撤退の判断は下されずコンコルドの開発はそのまま続行され、とうとう運行も開始されることとなるのです。
当然、損失は膨らむ一方。
そして結果的に、開発会社は多額の損失を出して倒産し、もちろん開発事業も中止に。
採算が取れないであろうと分かっていても、それまで費やしてきた多額の投資と時間、労力を惜しむあまりもったいないと思う気持ちが働いたのです。
この事例は、サンクコスト効果が作用して招いた事例の中でも大変有名なものであり、旅客機の名称を用いてコンコルド効果とも呼ばれるようになりました。
サンクコスト効果が作用している実例【7選】
前セクションでお伝えした『超音速旅客機コンコルド』の事例はスケールの大きいものでしたが、実は私たちの身近なところでもよく引き起こされているのがサンクコスト効果。
毎日の暮らしの中でサンクコスト効果が引き起こされると、いったいどうなるのか…
本記事では、身近な実例を体験談ベースで7つほど挙げていきます。
長年着ていないのに捨てられない洋服
3年前に購入したお気に入りのジャケット。
偶然街を歩いているときに一目惚れして思い切って購入。
それからは、毎日のように着て色んなところに出かけた思い出の一品!
ただ今となっては、流行も自分の趣味も変わり、すっかりタンスの肥やしに…
それでももったいなくて捨てられず、未だにクローゼットに眠っています。
着てもいない洋服でクローゼットがいっぱいなら、処分するなりリサイクルに出すなりして整理しようと判断するのが合理的。
すっきり整えたほうが使いやすいですし、今持っている洋服を活用しやすくなりますよね。
それなのに
「高かった」
「いつかまた着るかもしれない」
「お気に入りだった」
などの気持ちが働いて、合理的な判断ができなくなってしまっています。
実はこのよくあることも、サンクコスト効果の作用がもたらす現象の1つなのです。
食べ放題の飲食店で元を取りたい感情
食べ放題が売りの焼肉店へ入店。
しかし、普段の食費と比較すると割高…。
「ここまで来たのなら食べなきゃ損!」
普段はあまり食べないのですが、つい元を取らないと勿体ないと感じて無理をしてしまいました…。
食べ放題のお店であれば、一品ごとの値段を気にせずに選んで食べることができますが、無理をして口にする食事は果たして本当に美味しいでしょうか…。
ここで作用しているのは、支払った金額を少しも無駄にしたくないという心理。
「支払った金額分は食べて絶対に元をとりたい!」
「できればもっと食べて得をしたい」
と思ってしまっています。
食べ放題のお店の本来の目的である「追加料金を気にする事なくおいしく食事を楽しむ」ということ以外の対価を求めてしまう行動もまた、サンクコスト効果によってもたらされる現象なのです。
別れたほうが幸せな恋愛
長年付き合ってきた交際相手。
付き合いが長くなり、だんだんと好きな気持ちが薄れてきている気がしています。
しかも、この気持ちはどうやら相手も同じよう。
それでも情が湧いてしまって…
別れを切り出すことはせずに、ズルズルと交際を続けているんですよね。
それまでに費やしてきた時間や労力をもったいなく感じて別れられない、というのもよくある話です。
交際期間が長い場合はなおさらでしょう…。
しかし、より幸せな相手と結ばれたいと思うのであれば、別れたほうが合理的な判断ともとれますよね。
それなのに別れることができないという、恋愛にありがちな場面でも作用している心理現象なのです。
行列に並び続けてしまう感情
ランチはパスタにしようと、調べたイタリアンレストランへ。
行列ができていましたが意外とすぐに進むかもしれないし、とりあえず並んでみました。
しかし、一向に列が進むことなく、店内の様子を覗いても席が空きそうな気配は無いようです。
ふと周りを見てみると、向かい側にはパスタの専門店が。
さらに今ならすぐに入店出来そうな雰囲気。
だけど今さらこの列を抜けたくはないし…。
「ここまで待ったのだから並び続けようかな…」と時間が流れるのを待つのでした。
せっかく今まで待っていた時間がもったいなくて、列を抜ける判断がなかなかできないという状況。
並んでいても列があまり進まないのなら、同じようにパスタを出している向かい側の空いているお店に移ったほうが合理的ですよね。
それなのに並んでいる間に過ぎていった時間と待っていたという労力を手放すことを惜しみ、列を離れることはもったいないと感じてその判断ができません。
これもサンクコスト効果の作用によるものなのです。
面白くないけど最後まで見てしまう映画
楽しみにしていた久しぶりの休日。
家でコーヒーでも飲みながらゆっくり観ようと映画を観ることにしました。
しかし、30分経っても期待していたほど面白くなくてガッカリ…
それでも「最後の方は面白くなるかも?」と淡い期待を持ちつつ最後まで観ることにします。
DVDやBlu-rayを借りるにしろ、オンライン上のサービスにしろ、映画を視聴するには料金がかかりますよね。
すでに支払った料金をもったいないと思い、映画を観ることを途中でやめる判断ができない状態。
しかし、せっかくの休日。面白くないなと思いながら映画を観続けるよりも切り替えて違うことをするほうが時間を有効に使えて合理的です。
それでもサンクコスト効果の作用により映画を観続けてしまう、という経験がある方もいらっしゃるのではないでしょうか?
オンラインゲームの課金ガチャ
オンラインゲームの課金ガチャ。
欲しいキャラはずっと外れているけどそろそろ来る頃かも。
次に引いたガチャが当たるかもしれないから、あと1回…あと1回。
次こそ、と続けてしまってもう何回目だろう…。
だけど今やめるわけにはいかない!
今までに支払った金額や費やした時間がもったいないと感じてガチャを引くのをやめられない。
この現象もサンクコスト効果の作用によるもの。
引き続けていれば必ず当たるというものではないのに、当たるはずと思い込んでしまっています。
当たりを引けないままでは課金は増えていくばかりなのに。
ガチャを引くのをやめれば、その時点から料金を支払うコストや費やす時間は無くなります。
そうすればそれ以上に課金額は増えないのに、今までの分がもったいなくて合理的に判断することができなくなってしまうのです…。
お得な会費で始めたスポーツジム
「期間限定!!今申し込めばずっとお試し価格で通えます!」という謳い文句に魅力を感じて申し込んだスポーツジム。
最初は毎日のように通っていたけれど最近は忙しくなりほとんど利用できておらず、週に1回行ければ良いほうかもしれません。
でも解約するともうお試し価格では利用できなくなるし、またたくさん通えるようになるかもしれないからそのままにしておこうと思っています。
この場合、お試し価格で通えるという権利を手放すことはもったいないと思っています。
さらに、解約してしまうと今まで支払った会費が無駄になってしまうとも感じているかもしれません。
そこで合理的な判断をするのなら、利用回数が少ないスポーツジムに月会費を支払い続けるよりも解約してしまったほうが損失は少なくてすむと考えるでしょう。
しかしながら、サンクコスト効果の作用によりもったいない気持ちが働き、解約するという判断には至らずにいるのです…。
いかがでしょうか。
このようにサンクコスト効果が作用する場面は私たちの日常にたくさんあり、実例も数えられないほど出てきます。
過去を思い返してみると、きっとあなたもサンクコスト効果が作用した経験が一度くらいはあることでしょう。
そしてこのサンクコスト効果は、体験者が勝手に感じるものだけではなく、文字として読み手に意図して伝えることもできるのです。
次のセクションでは、そんなサンクコスト効果をコピーライティング内で使う方法をご紹介します。
サンクコスト効果をコピーライティングに活用する方法
もったいないという心理が働く時、サンクスコスト効果は作用しているということは、ここまででご理解いただけたかと思います。
では、それを自らが書く文章・コピーライティングに活用するには…?
それはズバリもったいないと思ってもらうのが効果的です!
そこで本セクションでは具体的な方法を3つ、ご紹介いたします。
方法①会員種別のランク付けによる継続や、顧客の単価向上を促す訴求をする
スマートフォンのキャリアやスポーツジム、エステサロンなどでもおなじみの会員特典は、サンクコスト効果の作用を表す代表格とも言えるでしょう。
ここでは購入金額に応じて会員ランクが分かれ、その会員ランクが上がるごとに特典が良くなっていく制度のサービスを例にしてみます。
高ランクの会員になるには一定の継続年数が必要であることも多く、長く続けていたのならそれはなかなか手放しがたいものです。
またそのサービスの会員をやめるとなると、惜しく思えるのは費やした今までの購入金額。
こうして
「せっかく高ランクの会員になったのだから」
「長く利用し続けているのだから」
ともったいない心理が働いてきます。
それにくわえて
- 〇〇年以上続けてくださっているあなただけにプレゼント
- あと〇〇円で会員ランクアップ
- 〇〇円以上購入で送料無料
- 〇〇円以上ご購入の方には次回使えるクーポンをプレゼント
などの文言があると、損をするような気持ちになり顧客の単価向上へと繋がっていくのです。
つまり、
『長く継続する事によって特典があるので、やめたらもったいない』
『あともう少し購入して特典得ないともったいない』
と思ってもらえるように訴求していくのが、サンクコスト効果を活用したライティングの方法となります。
方法②サービス利用開始のために「お試し」を活用する
様々なサービスにある、
・〇〇日間無料お試し
・今だけお試し価格〇〇円
などの文言でもサンクコスト効果を作用させることができるのです。
無料お試し期間中にサービスに触れて試してもらうことにより、その期間中に積み上げたものや費やした時間を手放すことをもったいないと感じやすくなるでしょう。
そうなると有料や定価になっても、サービスを利用し続けてもらえるように促す事ができます。
お試し無料期間やお試し価格などがあれば、無料の間だけサービスを利用しようと思ったりお得価格の間だけ購入しようと思う顧客は多く存在するもの。
まずはそのサービスを利用し、知ってもらう事が大切なので、サンクコスト効果を活用した訴求方法の1つとして押さえておきましょう!
方法③価値のある情報を提供する
私たちコピーライターとしては、書いた記事を読者の方に最後まで読んでほしいものですよね。
『せっかく少しでも興味を持って見てくれた方には、ぜひ最後まで読んでほしい。』
私たちのこの願いにはサンクコスト効果の作用を期待できると思いませんか?
そのためには「最初のほうを少し読んでみたけど、せっかくだし最後まで読もうかな」と思ってもらえれば良いのです。
- 無限にあるとも言える記事の中から、この記事を選んだ
- 気になる情報だったため少し読み進めた
この時点で、すでに読者の中にはサンクコストが発生しています。
つまり、選んでもらい読み始めてもらう事が必要で、そのためには
◆自分に向けて書かれている記事だと思わせるようなタイトルを付ける
◆誰が読んでも理解できる文章にする
という点を意識しましょう!
サンクコスト効果を活用する上での注意点
サンクコスト効果は身近で活用しやすい心理効果ですが、だからこそ気をつけなければならない注意点もありますので、活用しようと考えている方は本セクションの内容を特に押さえてください!
サンクコスト効果を乱用しない
読者と筆者との関係は常に良好に築いておきたいもの。
そのためには誤った判断を招くような表記はせずに、信頼を高めていかなければなりません。
しかし、サンクコスト効果が作用する場面では「自分は正しい判断をしている」と読み手が思い込んでいる場合がほとんどです。
そのため「受け取った側が誤った判断をしてしまう可能性もある」ということを忘れないようにしなければなりません。
さらにいえば、読者に誤解を与えるような表現をしたのは書き手の責任。
もし読み手が「騙された」と感じることがあれば、その時点で信頼関係などなくなってしまうため、誤解を与えてしまわぬよう、サンクコスト効果を乱用することは避けたほうが良いでしょう。
②「最初の一歩」がないと始まらない
前セクションでお伝えした活用例の全てに共通しているのですが、サンクコスト効果を活用するには最初の一歩がないとどうしようもありません。
例えば「会員ランク付けによる継続利用」を促す場合、そもそも会員になってもらっていないと会員ランクは意味がありません。
同じように「サービス利用開始のためのお試し期間」であっても登録をしてもらわなければなりません。
そのため、まずは、最初の一歩を踏み出してもらうための訴求が重要になってきます。
③あなた自身がサンクコスト効果に陥らない
考えに考えて書いた文章も、読み手に伝わらなければ意味がありません。
サンクコスト効果をはじめ、その他の心理学的要素を取り入れて、自信を持って書いた文章でも効果が得られないのなら何かを改善するほうが合理的ですよね。
それを
「あんなに練って書いたのだから大丈夫なはず…」
「あんなに調べたから伝わるはず…」
と何も変えずにいるのは、ライティングに費やした時間や労力にとらわれているということ。
それではあなた自身がサンクコスト効果に陥ってしまいます。
文章を書く者としてサンクコスト効果に陥らないためにも、この作用について理解し、客観的に判断できるようになりましょう。
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- 読むだけで技術が身につく『テキストブック(全8巻)』
- ライターの実情を紐解く『講義動画(全4本)』
- 約14日間の完全無料トライアル
- 参加人数6万人超え ※2024年8月23日現在〜
まとめ:身近な心理現象、上手に活用したいサンクコスト効果
ここまで、サンクコスト効果の特徴や歴史、身近な例から実用例まで幅広くお伝えしてきましたがいかがでしたか?
実際に本記事を読んでくださっている方のなかには『サンクコスト効果が作用していたことがあった気がする』と感じた方もいらっしゃるのではないでしょうか?
とはいえ、必ずしもサンクコスト効果が作用していることが“悪い”ということはありません。
筆者も何か選択を迫られるような場面では、サンクコスト効果が作用している中で判断した経験がありますが、その時の選択が良い方向へ向かったこともあります。
実際に活用する場合も同様に「合理的ではないけれど本人にとっては悪くない選択」の背中押しになるように上手に活用していきたいですね。
それでは、最後まで読んでいただきありがとうございます。