コピーライターとして仕事を受けていくようになると、いずれは校正・校閲の仕事を依頼されることが出てくるかもしれません。
実際に私自身も、ライターとして1年以上仕事を続けさせてもらったクライアントから「校正・校閲もお願いできませんか?」と言われたことがあります。
こうした場面に出くわしたとき慌てなくていいように、基本的な校正の流れややり方、校閲との違いについても理解を深めておくと安心ですよね。
そこでこの記事では、
・校正についての基礎知識 ・校正と校閲の違い ・具体的な作業内容や流れについて ・校正の精度をあげる工夫 |
などについて詳しく解説していきます。
校正について詳しく知り、急に仕事を振られても慌てなくていいよう、ライターとしてスキルアップしていきましょう。
校正とは?
校正とは、新聞・書籍・web記事などの文章コンテンツを公開する前にまちがいがないかをチェックし、修正する作業のことです。
主語と述語の関係性がおかしい、誤字脱字が多い、といったような文章だと読み手にストレスを与えてしまいます。
ストレスを与えるだけでなく、例えばチラシに表示されている商品の価格が一桁ちがっているといった大きなまちがいがあると、クライアント企業に多大な損害を与えてしまう可能性さえあります。
文章校正をきっちり行うことで記事の信頼性が保たれ、読者にストレスなく記事を読み進めてもらえるコンテンツとなるのです。
特に、新聞や書籍といった紙媒体の文章コンテンツでは念入りに校正作業が行われます。
印刷・製本した後でまちがいを発見し、作り直すことになると、膨大な手間とコストが必要になるからです。
こうした理由から、大手新聞社や出版社では校正を専門にする部署が存在し、会社員として校正の仕事にたずさわる専門職の人もいます。
一方で、社内に校正部門のない出版社などは外部の校正プロダクションに校正を依頼したり、クラウドソーシングサイト(仕事を依頼したい企業と仕事を受けたい個人をつなぐマッチングサービス)で依頼したりもしています。
また、校正とよくまちがわれやすい言葉に「校閲」があります。
この2つは厳密に言うと確認するポイントが異なるのですが、作業内容が似ていることから人員や予算の関係で同じ人に「校正・校閲をお願いします」とまとめて依頼する場合もあります。
そこでここからは、校正と校閲の違いについて詳しく見ていきましょう。
校正と校閲の違いは?
校正と校閲の違いをシンプルにお伝えすると、以下のようになります。
◆校正・・・文章中の文字など「表記」を正しく修正すること
◆校閲・・・文章の「内容」を正しく修正すること
校閲は「ファクトチェック(事実確認)」と呼ばれることもあるため、こちらの言葉のほうがイメージが伝わりやすいかもしれませんね。
この説明だけでは分かりづらいと思いますので、具体的な例文を見てみましょう。
【校正労働省の発表によると。2021年に熱中症で死亡した75歳以上の人数は641人です。】
このような文章があった場合、校正者が修正するのは
- 「厚生」が「校正」になっている誤字の部分
- 「発表によると」の後が「、」であるべきところ「。」になっている部分
こういった表記のまちがいを修正します。
一方、校閲者は文章の内容がまちがえていないか事実確認をおこないます。
例文で言えば「2021年に熱中症で死亡した75歳以上の人数は本当に641人であっているのか?」という内容の部分について、実際に厚生労働省のホームページで確認します。
この例文の場合、実は「75歳」の部分を間違えており、発表では「65歳以上」となっているため、この数字を修正することになります。
このような数字以外でも、例えばミステリー小説のトリックに矛盾がないかどうか、小説中に出てきた表現に違和感がないか(例:青森県産のみかんが、と出てくれば青森県でみかんが収穫できるかどうかを確認する)など、細かい部分までチェックしています。
校正作業の流れ
それではここから具体的な校正作業の流れについて詳しくご説明します。
①初校
作家やライターからあがってくる手書きやWordで作成された文章、これが「原稿」です。
この「原稿」にページ番号、イラストなどのデザインをほどこして仮に印刷したものが「ゲラ刷り」あるいは「校正刷り」と呼ばれます。
「ゲラ刷り」と「原稿」を近くに置いて突き合わせながら、1文字1文字チェックしていくのが校正の仕事です。
このチェックは「文章を読む」というよりも「1文字ずつ文字を追う」という感覚。
人間の脳はとても優秀で、文章を読むときは知っている単語のまとまりでとらえているため、少しのまちがいは修正しながら自然に読めてしまうのです。
文章を読まずに文字だけを追えるよう、あえて文章の終わりからチェックする方法もあるほど、文章の流れを無視して「表記」のまちがいを正していきます。
まちがいをみつけ、修正すべき箇所に指摘を入れて1回目の校正を終えたものが「初校」です。
ちなみに、印刷する必要がないweb記事の校正ではこの「ゲラ刷り」の工程がなく、Web上のメモ機能などを使って修正指示をやりとりすることもあります。
②再校
続いて、初校で修正の指示が入った部分を反映させた新しい校正刷りが出来上がります。
その、修正をきちんと反映させた新しい校正刷りをチェックして、2回目の校正を行うのが「再校」です。「二校」とも言われます。
1回目の修正指示がきちんと反映されているか、見落としていた部分がないかをチェックします。
③三校
その後、さらなる不備や見落としがないか確認するため「三校」「四校」「五校」と校正作業を繰り返し、原稿のまちがいを丁寧に修正していきます。
なお、この作業は最終的な印刷・製本に至る期間や予算などの事情によって省略されることもあり「三校までは必ず実施される」というものではありません。
④校了
修正するべきところがなくなったら「校了」です。ここまできて、ようやく校正作業終了ということになります。
ただ、修正指示が少ない場合、時間がなく急いでいる場合など「残りは印刷所の責任で修正を行い、校正を終了する」(責了=責任校了)となる場合もあります。
校正が必要なコンテンツ・媒体とは?
ここまでは校正と校閲の違いや、校正作業の流れについてご説明してきました。
では、こうした校正・校閲を必要とするコンテンツにはどのようなものがあるのでしょうか?
基本的には「人に読ませるための文章コンテンツはすべて校正が必要」と考えるのが無難でしょう。
どんなに小さなウェブメディアでも、読者がストレスを感じる文章をそのままアップしていたのではすぐ離脱されてしまうからです。
ただし「校正」にかける時間や予算などは、メディアによって差が大きいと言えます。
前述したとおり、新聞や書籍といった紙媒体の文章コンテンツは印刷・出版後の修正が容易にできないため、特に念入りな校正が行われ、校正の専門部署も存在するとお伝えしました。
念入りな校正を必要とする紙媒体のコンテンツには、他にも以下のようなものがあります。
・カレンダー
・ポスター
・広報紙
・学習参考書
・漫画
・小説
・手帳
・社史・周年史
・チラシ
一方、ウェブ記事であればまちがいに気づいてからでも比較的かんたんに修正ができるため、メディアの予算などの都合によって、かんたんな校正ですませるパターンもありえます。
とはいえ、まちがえたままの状態で公開すると拡散されるスピードも速いのがウェブの特徴ですから、まったく校正をせずに公開するというわけにもいかないでしょう。
クラウドソーシングサイトで文章校正者の募集をしているのを見かけることがありますが、単価は実にさまざまです。
「専門知識は問わない」という校正依頼であれば文字単価¥0.1〜というものもありますし、「金融系の専門知識を有する方」や「新聞・出版社での校正経験○年以上の方」といった条件付きになると、その条件に応じて単価も高くなるようです。
また、クラウドソーシングサイトでは校正作業だけを募集していることはあまりなく「編集と校正」や「校正とCMS入稿」のように、別の仕事と合わせて依頼しているのを多く見かけます。
校正にどれだけの予算と労力をかけているかはメディアによって差があるとしても、基本的に校正を必要とするウェブコンテンツには以下のようなものがあります。
・企業のホームページ
・LP(ランディングページ)
・ブログ記事
・ニュースサイト
・キュレーションサイト
・メールマガジン
・You Tubeのシナリオ・台本
校正の具体的な仕事内容とは?
ここからは校正者がどのような点に注目して作業を行っているのか、具体的な仕事内容をお伝えします。
ライターのみなさんが校正作業を頼まれたとき、何を修正すればいいかの参考にしてみてください。
誤字・脱字・衍字(えんじ)のチェック
誤字・脱字・衍字のチェックとは「誤った字を当てていないか?」「抜けている字はないか?」「必要のない余分な字はないか?」をチェックすることです。
例えば次のような文章があったとします
【私は今日、彼ににプレゼンを私た。】
この場合最後の「私た」は明らかに誤字なので「渡した」に変える必要があります。
校正記号と呼ばれる記号を使って、一般的には赤字で修正指示を入れます。
また「彼にに」となっている部分は「に」が1つ余分に入っている、いわゆる「衍字」なので削除の指示を入れます。
さらに「プレゼン」は「プレゼント」の脱字かもしれません。
ただ、この場合は「もしかしてプレゼンの資料を渡したという意味だろうか?」と内容に疑問ももちますよね。
プレゼントの脱字なのか、プレゼンの資料を略した言葉なのか分からず、後で確認が必要となる部分は、赤字ではなくエンピツ書きにするなど、区別のつく色で書き込みをします。
助詞の使い方をまちがえていないか
助詞の使い方はまちがえやすいポイントで、たった1文字違うだけで意味がまったく違うということはよく起こります。
「この文章は”てにをは”がおかしい。」と言われる文章が、助詞の使い方をまちがえている文章ですね。
ライターや作家でもまちがえやすいところだけに、プロの校正者の視点から助詞の使い方をチェックするのが大切なのです。
例えば次の3つの文章を比べてみましょう。
【花子はコンサートへ行った】
【花子のコンサートへ行った】
【花子とコンサートへ行った】
「は」「の」「と」がそれぞれ1文字違うだけのこの文章。
1番上の文章だとコンサートへ行ったのは「花子」だと分かりますが、真ん中の文章ではおそらく「私は」という主語が隠れているのだろうと推測できるだけで、誰がコンサートへ行ったのかはっきりしません。
また、一番下の文章では、花子を含む2人以上でコンサートへ行ったことがうかがえます。
文章をよく読み、明らかに助詞の使い方をまちがえている場合は赤で修正を入れ、確認が必要な場合は区別できるように別の色で指摘を入れます。
重複表現がないか
間違えやすいものに「重複表現」があります。
例えば次のような文章。
【起きたらまず最初に朝ごはんを食べます。】
これは「まず」という言葉が「最初」を表しているにもかかわらず、それに続けて「最初に」と同じ言葉を重ねてしまっているため、文法的には誤りだと言えます。
「朝のモーニングコール」や「頭痛が痛い」などもこうした重複表現にあたりますので注意しましょう。
慣用句の使い方
思い込みによる慣用句の間違いも、注意すべきポイントです。
有名なところで「渡る世間に鬼はなし」という慣用句がありますが、この慣用句をもじったタイトルの人気ドラマ「渡る世間は鬼ばかり」がヒットしたことで、元の慣用句を知らない人も増えてきました。
他にも、本来の意味とは違う形で使われやすい慣用句に以下のようなものがあります。
表記ゆれがないか
表記ゆれのチェックとは、一つの記事内で同じ意味を表す言葉の表記が統一されているかをチェックすることです。
以下に3つほど例をあげてみます。
- 「貸し出し品」と書くのか「貸出品」と書くのか?
- 「1万2千メートル」と書くのか「12,000m」と書くのか?
- 「私」と書くのか「わたし」と書くのか?
このように、同じ意味の言葉でもその言葉が出てくるたびに書き方が違っている(表記ゆれがおきている)と読者がストレスを感じる原因になります。
どちらの書き方が正解、と決まっているわけではなくても、1つの記事内では表記が統一されていたほうが読みやすいですよね。
複数のライターを抱えるウェブメディアなどは、全体でレギュレーション(執筆ルール)という形で表記を統一していることも多いので、指示通りの書き方で統一されているかをチェックする必要があるのです。
敬語の使い方に誤りがないか
世界の言語の中でも日本語が特に難しいと言われる理由に「敬語」の難しさがあります。
丁寧語、尊敬語、謙譲語の使い方は非常にまちがいの多いポイント。
例文をあげて見てみましょう。
【お客様がそのように申し上げました。】⇒【お客様がそのようにおっしゃいました。】
(申し上げる、は自分がへりくだるときの言い方)
【先生がおっしゃっていらっしゃいました。】⇒【先生がおっしゃいました。】
(二重敬語)
このように、文中で不自然な敬語が使われていないかどうかもチェックします。
校正の精度を上げるためには?
ライターであれば、自身が書いた文章を納品する前にしっかり校正しておくと制作物のクオリティが上がり、それがクライアントからの高評価にもつながっていきますよね。
ただ、書いた本人が自分の文章を客観的に見るのはなかなか難しいもの。
可能であれば校正のプロに依頼したいところですが、実際には予算や時間も限られていることでしょう。
このセクションでは、そうした限られた条件の中でできるだけ校正の精度を上げるために、私が実践しているポイントをお伝えしていきます。
別媒体で確認する
文章を書いたときとは別のツールを使って読み直す、というのは1つの効果的な方法なので、私も実践しています。
- パソコンで入力した文章をスマホ画面で確認する
- あえてプリントアウトして紙で読み直してみる
見え方の違うもので読み直してみると、案外見逃していたまちがいに気づきやすくなりますよ。
時間を置いて改めて見る
夜にチェックした原稿を翌朝もう一度チェックする、といったようにしばらく時間を置いてから改めて確認することも校正の精度をあげるのに有効です。
私自身もそうですが、夜はどうしても脳が疲れていたり、眠気におそわれたりしがちで、チェックしたつもりでも抜けてしまうことが多々あります。
たくさん眠って脳がスッキリした状態で読み直すと、見逃していたまちがいに気付ける可能性も高くなります。
チェック項目を絞る
項目を絞って自分が見落としがちなポイントを重点的にチェックするのもおすすめです。
- 数字だけに注目し、すべて半角で揃えられているかをチェックする
- 語尾だけに注目し、ですます調で揃っているか、同じ文末表現が続いていないかをチェックする
- 固有名詞に注目し、会社名が正しいかどうか、個人名の漢字がまちがえていないかをチェックする
複数の人で確認する
時間と予算に余裕があるなら、2人、3人といった複数で原稿をチェックするのが理想的でしょう。
複数の目で見れば、それぞれの人で気づきやすいポイントが違うからです。
ライターが自分の書いた文章をまずセルフチェックし、その後校正者がチェックし、最終的に編集者がチェックするという流れができると、見落としも少なくなります。
AIやツールを用いる
グーグルドキュメントやWordといった文章作成ソフトを使うと、文章を書いている最中でも簡単な修正箇所なら指摘してくれます。
「誤字」「脱字」「衍字」があると色の付いた波線が表示され、修正するための案も提示してくれるため、活用している方も多いのではないでしょうか?
ただ、表記ゆれや文末表現の連続、慣用句や地名の間違いなどについては指摘されません。
このような細かい部分まで指摘してほしい、と思うならオンラインで利用できる有料・無料の文章校正ツールがいくつかあるので試してみるのもいいのではないでしょうか?
参考までに、無料で利用できる文章校正支援サービス「PRUV(プルーフ)」にわざと間違えた文章を入力し、校正をしてもらいました。
左側のテキストエリアに文章を入力すると、指摘箇所に色をつけて右側で詳しく解説してくれます。
今回の場合「福岡県福山市」と入力したところ、福山市は広島県であることを指摘してくれました。
また「小学生」を「超学生」と入力したところ、学生という言葉は高専・大学・大学院生に使われる言葉であるため、見直すよう注意をうながしてくれました。
一方で気になったのは「襲いかかった」をわざと「遅いかかった」と入力した間違いについては指摘されなかった点です。
このことからも分かるように、無料の文章校正ツールでは完璧な校正までは期待できないと言えます。
そうは言っても、Wordやグーグルドキュメントなどの文章作成ソフトでは指摘されない細かい部分まで指摘してくれる点でメリットが大きいのは確かです。
こうしたAIツールもうまく活用しつつ、やはり最後はしっかり人の目と手で校正を行い、コンテンツの質を上げていく必要があるでしょう。
まとめ:校正を覚えて信頼できる文章を納品しよう
今回の記事では、校正についての基礎知識や、校正と校閲の違い、校正作業の流れや具体的な仕事内容についてお伝えしてきました。
また、私自身がライターとして仕事をしている中で「校正・校閲もお願いできませんか?」と依頼された経験から、校正の精度をあげるために有効だと思われる方法についてもご紹介しました。
ウェブメディアの中には独自のレギュレーション(執筆ルール)が細かく定められているところもあります。
そうしたメディアでは、校正・校閲の専門業者に依頼するより、執筆ルールに慣れたライターに校正を依頼したいと考えるところもあるのです。
「ライターだから校正はしない」と割り切るのではなく、書き上がった記事は自分でできる範囲で校正したり、AIツールを活用したりして、納品する記事の品質をあげていきましょう。